空き家を活用! 町全体でもてなす分散型ホテル
空き家“先進国”イタリアでは100地域以上で
東京都台東区の谷中の街並み。
空き家をリノベーションして客室にし、町全体を宿に見立てたホテルが、東京の谷中にある。このあまりに斬新なビジネスモデル、地域経済循環や空き家対策にもつながるため、旅好きな方のみならず、地域創生に携わる人にも是非知ってもらいたい。
町全体をホテルにするコンセプト
東京都台東区にある谷中は、昔ながらの東京の街並みが残っており、お寺や雰囲気のいい路地などがある渋い町だ。近年、外国人旅行客も増えている。
この谷中にあるホテル「hanare」のコンセプトが斬新だ。従来のホテルには、館内にフロントがあり、客室があり、浴室があり、食堂がある。しかし、hanareでは、それらが谷中の町に「分散」している。
分散型ホテルイメージ図。
まず、フロントにチェックインすると、谷中の町の散策マップと銭湯のチケットがもらえる。
近くの自転車屋さんでレンタサイクルを借りて、谷中を散策。お寺やお稽古教室で文化体験もできる。一日歩き回ったら町の銭湯でひと風呂浴びて、定食屋や飲み屋へ・・・。お土産は商店街や路地にある雰囲気のいい雑貨屋で・・・。
従来のホテルのように、レセプションもレストランもバスルームもお土産までホテル内に置いて宿泊客を囲い込むのではなく、町全体で宿泊客をもてなす分散型ホテルなのだ。
「hanare」レセプションは、カフェやギャラリーが入る複合施設「HAGISO」の一角にある。この建物は、もともと東京藝術大学の学生がアトリエなどに利用しており、老朽化で解体される予定だったものをリノベーションしたもの。
このビジネスモデルは、ホテルだけが儲けるのではなく、町全体が儲かることに気づく。宿泊客が増えれば、町の定食屋が儲かり、飲み屋さんが儲かり、レンタサイクル屋が儲かり、お土産屋が儲かる。以前の半数(5軒)になってしまった銭湯を盛り上げることにもつながる。
さらに、このhanareの宿泊棟は、長年空き家だった建物を借り受けてリノベーションしたもので、空き家対策にもなっている。しかも、空き家のリノベーションや分散型ホテル運営に、行政からの補助金は全く入っておらず、完全な民間事業であることも注目だ。
空き家をリノベーションした宿泊棟(レセプションから徒歩1分)
イタリアの「アルベルゴディフーゾ」がモデル
空き家を活用して町全体をホテルに見立てる同様の取り組みは、空き家“先進国”のイタリアでも行われている。「アルベルゴディフーゾ(Albergo Diffuso:分散型ホテル)」と呼ばれ、アルベルゴディフーゾ協会に登録しているものだけで94、登録していないものも含めると150程度ではないかとされている(参考資料1)。
アルベルゴディフーゾでは、単に空き家の鍵を渡して部屋に案内すれば終わりではなく、宿泊者に街を体験してもらう、町全体で旅行者をもてなすことに重点が置いているという。
*アルベルゴディフーゾについて興味がある方はこちら(参考資料)
参考1:『CREATIVE LOCAL エリアリノベーション海外編』(馬場正尊ら編著:学芸出版社)
参考2:http://coinaca.com/(菊地マリエ氏運営)
参考1:『CREATIVE LOCAL エリアリノベーション海外編』(馬場正尊ら編著:学芸出版社)
参考2:http://coinaca.com/(菊地マリエ氏運営)
アルベルゴディフーゾのイメージ(アルベルゴディフーゾ協会HPより)
空き家対策や地域創生事業として期待
少子高齢化社会が進行する中、空き家問題の深刻度が増している。平成25年における空き家は全国で820万戸に上り、空き家率は実に13.5%となっている。空き家対策の必要性が増す中、2015(平成27)年に空家法(空家等対策の推進に関する特別措置法)が施行され、全国の各自治体において空き家バンクなどさまざまな取り組みが始まっているが、空き家活用の広がりはこれからだ。
また、地域創生の掛け声のもと、全国でさまざまな地域活性化事業が展開されている。しかし、地域活性化事業のための予算が、結局は大都市のコンサルや広告代理店に流れてしまっていることも多いとの指摘もある。
囲い込むのではなく、地域でもてなすこの分散型ホテルの取り組みは、これら空き家対策や実効性のある地域活性化の1つの手段・考え方とならないか。
分散型ホテルに拡大の兆し
この分散型ホテルの取組は、徐々に拡大の兆しを見せている。昨年には、まちを1つの宿と見立て、まちぐるみで宿泊客をもてなすことで地域価値向上を目指す「日本まちやど協会」が発足。現在、谷中のほか、香川県高松市仏生山など6地域が登録されている。
昔から地元にある商店で買い物し、地元の人が利用する地元の食材を使ったレストランでの食事をして、地元住民とのふれあうといった、あたかも地元住民として生活するかのように滞在できる体験は、これまでの「観光地」や一般的なホテルが提供することは難しい。こうした体験の魅力が大きく広まる可能性は、十分あるのではないか。
分散型ホテルのビジネスモデルは、ホテルがなく観光客の滞在が難しい集落など、これまで観光とは無縁だった土地も「観光地」となりうる可能性を秘めている。
囲い込むのではなく、地域でもてなす分散型ホテルの魅力が広がり、地域経済活性化や空き家対策に少しでもつながることを期待したい。
追伸:まちづくり事業(空き家対策、公園活用など)の地域経済効果の研究を行っています。これらの事業について、事例データを提供いただける方、アドバイスいただける方、ぜひinagaki_energy@yahoo.co.jpまでご連絡ください。
*本原稿は個人として執筆したもので、所属する団体の見解などを表すものではありません。
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